コーヒー豆を購入する際に「ナチュラル」や「ウォッシュド」という言葉をお聞きしたことはございませんか?
これらはコーヒー豆の生産過程の一つである「精製」のことを指します。
「ナチュラル」や「ウォッシュド」は精製方法のことです!
精製方法が異なることでコーヒー豆の味わいにも影響を与えてきます。
今回はこれらの精製方法について解説していきます。
精製過程とは
一般的に精製とは、「粗製品にさらに手を加えて良質なものにすること」という意味を持ちます。
コーヒー豆の精製というのは、コーヒーチェリーから種子を取り出し、生豆にする工程のことをいいます。
元々、コーヒー豆というのは果物の種子です。
以下の図はコーヒーチェリーの構造ですが、⑥生豆(種子)というのがコーヒー豆です。
このコーヒーチェリーの「①外皮〜⑤シルバースキン」を取り除き、生豆を取り出し加工する工程が「精製」です!
(シルバースキンは一部残り、焙煎時にチャフとして取り除かれます)
コーヒーチェリーに詳しく知りたい方は、以下の記事も併せてお読みください!
精製方法は複数ある
精製過程についてはご説明した通りですが、精製方法については複数あり、国ごとや農園ごとにより精製方法が異なります。
前述した通り、精製方法が異なることでコーヒー豆の味わいは変わっていき、品質も異なってきます。
ここでは伝統的な精製方法だけでなく、近年化学的アプローチの結果生み出された精製方法もいくつかご紹介します!
ナチュラル(乾燥式)
伝統的な精製方法の1つです。
ナチュラルとは、日本語で乾燥式精製方法という意味で言葉の通り、コーヒーチェリーを天日乾燥させます。
コーヒーチェリーをそのまま天日乾燥させるため、外皮や果肉はついたまま乾燥をさせます。
大がかりな設備は必要とせず、工程のシンプルさが取り柄です。
味わいについては、コーヒーチェリーを乾燥させることにより果実が付いたまま発酵するため、ウォッシュド(水洗式)とは異なり、コクや香りが非常に優れたコーヒー豆となります。
工程1 天日乾燥
コンクリートの床一面にコーヒーチェリーを広げて乾かす方法や、高床式の乾燥棚(アフリカンベッドと呼ばれる)を用いてコーヒーチェリーを広げて乾かす方法があります。
コンクリートの床よりもアフリカンベッドの方が通気性が良いため、コーヒーチェリーを均一に乾燥をさせることができます。
長くて1ヶ月ほど乾燥させますが、乾燥したコーヒーチェリーは水分が抜けて黒みがかってきます。
工程2 脱殻(だっかく)
脱穀(だっこく)ではなく脱殻(だっかく)です!
この工程では、字面の通り、殻を取り除くことを意味します。
乾燥させたコーヒーチェリーを脱殻機にかけることで、生豆の周りにある外皮や果肉、パーチメントなどを取り除き、生豆のみを取り出す工程です。
脱殻はナチュラルに限らず、ウォッシュド等でも行われる工程です。
天日乾燥をするということは、途中で雨が降った場合はどうするんでしょうか…?
雨が降り続く場合などは、そのまま乾燥することはできないね。
そのため「ナチュラル」を採用しているのは、乾季と雨季がはっきりと別れている地域で行われることが多いみたいだね!
- ブラジル
- エチオピア
- イエメン
- インドネシア(カネフォラ種) など
- 大がかりな設備を必要としない
- コーヒーチェリーを発酵させるため、コーヒーの香気が濃厚なものとなる
- コーヒーチェリーのまま乾燥をさせるため、水分含有量が多く、乾燥に時間がかかる
- 生豆が未成熟なものなど取り除くのが困難
ウォッシュド(水洗式)
ナチュラルと同様に、伝統的な精製方法の1つです。
ナチュラルのシンプルな工程とは異なり、いくつかの工程を挟んで精製されます。
工程1 フローター選別
はじめに、コーヒーチェリーを大きな水槽にいれます。この水槽にいれると、ナチュラルでは取り除くことが難しい未成熟な果実が浮いてくるため、未成熟果実や異物をあらかじめ取り除きます。
浮いてきた果実を取り除くためフローター選別とも呼ばれます。
工程2 パルパーによる果肉除去
その次に、果肉を除去する「パルパー」という機械で果肉を除去していきます。ここでもサイズの小さい未成熟果実は、そのサイズ差により、果肉が除去されないため選別されます。
このはじめの2つの工程により、未成熟果実や異物が取り除くことができることが、ナチュラルとは異なるウォッシュドのメリットです。
工程3 発酵槽によるミシュレージ除去
果肉を取り除くと、生豆の周りにはミシュレージという粘質物が残っているため、これを取り除きます。
このミシュレージを取り除く方法が、発酵槽に浸からせて取り除くという発酵層処理であり、ウォッシュド(水洗式)の由来です。
発酵槽にミシュレージ付きのコーヒー生豆を浸からせることで発酵させて、酵素と微生物によりミシュレージを取り除きます。
発酵が行われるとミシュレージ分解時に、アルコール類や有機酸類などが生成されますが、これらがウォッシュド精製による独特の味わいを生み出しています。
最近では、伝統的な発酵槽によるミシュレージの除去だけではなく、機械によるミシュレージの除去も行われています。これを「セミウォッシュド」といい、こちらで説明しています。
工程4 乾燥
発酵槽によりミシュレージが除去されたコーヒー生豆(パーチメント付き)を乾燥させます。
乾燥する際には、ナチュラルのように天日乾燥する場合と、機械を用いた機械乾燥の2つがあります。
乾燥期間は長くて10日ほどです。
工程5 脱殻
乾燥したパーチメント付きコーヒー生豆を脱殻機にかけることで生豆の周りにあるパーチメントを取り除きます。
ナチュラルのように乾季と雨季がはっきりと別れていないような地域や降雨量が多い地域では、優れた精製方法ですね!
- 中南米、アフリカ、アジアなど世界各国
- 精製工程の初期段階で、未成熟果実や異物の除去が行える
- 発酵槽に浸けて精製することにより、スッキリとしたクリーンな味わいになる
- 大規模な水槽設備や機械設備などの設備費用がかかる
- 大量の水を使用するため、環境負荷が大きい
パルプドナチュラル(ハニープロセス)
中米などでは、ハニープロセスという名称で呼ばれる精製方法です。
ハニープロセスという名前の通り、甘みを持ったコーヒーを生産できるコーヒー豆です。
工程はウォッシュドとほぼ同じですが、違いは「ミシュレージの除去」です。
ウォッシュドの場合はミシュレージを完全に除去しますが、パルプドナチュラル(ハニープロセス)ではミシュレージを残して乾燥させます。
1.選別
2.パルパーによる果肉除去
3.ミシュレージ一部除去(除去しない場合もあります)
4.乾燥
5.脱殻
また、ミシュレージをどれほど残して乾燥させるかにより、名称が異なりコーヒー豆に与える味わいに変化をもたらします。
- ブラックハニー(ミシュレージ除去率:5%以下)
- レッドハニー (ミシュレージ除去率:5〜50%)
- イエローハニー(ミシュレージ除去率:50〜75%)
- ホワイトハニー(ミシュレージ除去率:75〜90%)
ミシュレージが多い「ブラックハニー」の場合は、ナチュラルのような濃厚な味わいを持ったコーヒー豆が出来上がります。
ミシュレージが少ない「ホワイトハニー」の場合は、ウォッシュドのようなクリーンな味わいを持ったコーヒー豆が出来上がります。
ナチュラルと比較した際の大きな違いは、フローター選別やパルパーによる果肉除去が行われる際に未成熟果実を取り除くことができる点ですね!
- 未成熟果実や異物などをあらかじめ除去することができる
- ミシュレージの除去した割合によって味わいを調整することができる
- 設備費用がかかる
スマトラ式
インドネシアのスマトラ島の一部で採用されている精製方法です。
スマトラ式の大きな特徴は、2回乾燥させることにあります。
精製工程の途中まではウォッシュドと同様ですが、ミシュレージ除去から工程が異なります。
スマトラ式の場合は、ミシュレージを一部残すかあるいは全て除去した後に、1回目の乾燥を行います。
この1回目の乾燥時のポイントは、完全に乾き切る前に乾燥を切り上げてパーチメントの脱殻を行うことです。
湿った状態での脱殻なので、生豆を傷つけてしまうことが多いことがデメリットです。
脱殻後は、2回目の乾燥を行います。ここで完全に乾燥させて出来上がりです。
1.選別
2.パルパーによる果肉除去
3.ミシュレージの一部、または全てを除去
4.1度目の乾燥(完全に乾燥させない)
5.脱殻
6.2度目の乾燥(完全に乾燥させる)
スマトラ式で精製されたコーヒー豆は見た目や味わいが非常に独特です。
コーヒー生豆は深緑色をしており、他のコーヒーと違い独特な香りと味わいを持ち合わせています。
スマトラ式で精製されているマンデリンは、その独特な味わいから多くのマンデリン好きを作っているね!
- スマトラ式ならではの、独特な味わいを持ち合わせることができる
- 完全に乾燥していない湿った状態で脱殻を行うため、生豆が傷つくことが多い
セミウォッシュド
上記でご説明したウォッシュドとほぼ同様の精製方法です。
異なる点はミシュレージの除去のやり方です。
ウォッシュドでは、発酵槽を用いてミシュレージを除去すると説明しましたが、セミウォッシュドの場合には発酵槽ではなく機械を用いてミシュレージを除去します。
1.フローター選別
2.パルパーによる果肉除去
3.機械を用いてミシュレージ除去
4.乾燥
5.脱殻
また、ミシュレージ除去方法の違いから、発酵槽を用いたミシュレージの除去をフリーウォッシュドと呼ぶこともあります。
- フリーウォッシュド:発酵槽を用いてミシュレージ除去
- セミウォッシュド :機械を用いてミシュレージ除去
フリーウォッシュドと異なり、機械を用いているため連続的に処理ができるだけでなく、処理時間の短縮もできるため各生産国で採用されているところも多いです。
味わいもフリーウォッシュドのようにスッキリとしたクリーンな味わいです。
- 機械を用いることにより、効率よく精製できる
- フリーウォッシュドと比べると使用する水の量が少ないため、環境負荷が少ない
- 設備費用がかかる
アナエロビックファーメンテーション
伝統的な精製方法とは反対に、近年では科学的アプローチにより精製方法を行っているところもあります。
その1つが「アナエロビックファーメンテーション」です。
ナチュラル(乾燥式)もウォッシュド(水洗式)も方法は違えど、どちらも発酵をさせることでコーヒー生豆を精製させています。
アナエロビックファーメンテーションは、この発酵過程について目をつけたものです。
ナチュラルなどが発酵する際には、酸素がある状態で菌が活動する「好気性」で発酵をさせるものです。
アナエロビックでは、人工的に酸素がない状態を作り出し、酸素がない状態で菌が活動する「嫌気性」で発酵をさせます。
この嫌気性発酵処理は、元々はワイン醸造などで使われていたもので、それをコーヒー豆の精製方法で取り入れたものです。
アナエロビックのコーヒーに関しては、飲んだことも焙煎したこともない、私にとっては未知の領域です…。
アナエロビックを用いて生産されたコーヒーの焙煎は、2022年ではチャレンジしたいことの1つだね!
各精製方法のフローチャート
それぞれ異なる工程を踏んで行われる精製方法ですが、最後に比較しやすいようにそれぞれの精製方法のフローチャートを簡略的にまとめてみたので、ぜひ参考にしてみてください!
精製方法によって、コーヒー豆に与える味わいの変化は大きいなと個人的には思っています!
やはりよく見かけるのは「ナチュラル」と「ウォッシュド」ですが、ぜひ色々な精製方法で生産されたコーヒーを今後も飲んでいきたいですね。
それでは、楽しいコーヒーライフを!